M型ライカ購入から一年|背伸び購入の経緯と現在の心境

昨年6月に、Leica M11–Pを購入してはや1年が経過しました。
30歳を節目として背伸びして購入したことには全く後悔ありませんが、その反面、純正レンズと組み合わせて購入したために、実はまだ分割支払いの途中でもあります。それでも、購入以降にライカは度重なる価格改定を実施しており、思い立ったが吉日という言葉がよぎります。あの時決心してよかった。
そこで今回は肩肘を張らず、カメラ素人の僕がライカに魅了されるまでの体験記と、一年間M型ライカを使用した私見をお伝えします。

距離を測る撮影体験、デジカメ世代に使いこなせるのか

「勢いで買ってしまった」
というには、いささか高額すぎるカメラですが、一年前の僕は確かにそうだったのです。

当時はFUJIFILMのX– T5を使用しており、休日に趣味でカメラを持ち出す程度で、アマチュアカメラマンですらないただの愛好家の私には十分すぎるカメラでした。新宿の某中古カメラ店でも、赤い絨毯のライカブティック1Fは素通りしてFUJIFILM階に直行、中古レンズを買うにも販売価格と下取り価格の上下に一喜一憂していたものです。

「ライカは憧れのブランドカメラ」程度の認識でしたし、どちらかと言えば国産メーカー、中でもFUJIFILMに愛着を持っていました。また当時、FUJIFILMのX100Ⅵが入手困難となって世間を賑わせている最中でも生産と流通を願っていたユーザーの1人でした。

そんな最中、時を同じくしてFUJIFILMの会見でライカを例に出す発言があり、「ライカのように、安価で大量生産でない、いつまでも歴史に残るカメラを開発していきたい」といったニュアンスで今後の製品開発方針を打ち出す旨の発言がありました(曲解も多分に含む)。FUJIFILM愛を持っていた私にとって、「そこまで言わせるライカってどんなものだ?」と興味が生まれてしまった瞬間でした。雑誌でしか見たことのないライカのカメラとレンズ達。足を運んで実物の機材を見に行ったことが、この後の大散財の始まりでした。

さて中古カメラ販売の某店を訪れると、ズミクロンやズミルックスだの、エルマーやズマールなど耳馴染みのない字面が並びます。製造年は私の両親よりも年上で、それでいてシルバーに光る鏡胴は西洋の甲冑のような輝きで、海賊の持つ金属製のコンパスや遠眼鏡を彷彿とさせる造形に惹かれない訳がありません。

一体どれだけの人々の生活とともに時代を経たのだろう。私のこれまでの人生の何倍もの期間を経てきたこれらの機材は、先人達の暮らしと人生の中でさまざまな瞬間を撮影し感情を写してきたのでしょう。アンティーク通でも歴史主義でもない私にとってさえ、長い歴史の中で愛されてきた機材には敬意を抱きました。

また、M型ライカ用のレンズはAF機構を搭載していないことからも、現行最新レンズであっても小型軽量(高額)な点も見逃せません。FUJI機のコンパクトさを評価していた私にとっても、ますます気になる存在となりました。

さらに、撮影との付き合い方についても一考する機会が訪れます。
デジタルカメラでの連写に慣れてしまっていた私は、一瞬を逃すまいと高速連写の癖がついており、膨大な数の画像ファイルを扱っていました。そのせいで写真のセレクト・現像にゲンナリしてしまっており「何だかなあ」と思っていた時期も重なったのです。
スポーツや野鳥撮影ならまだしも、極めてスローライフな日常を撮るにあたって、こんなにも連写する必要はないことは自明なのですが、どうしたものか不安になって保険的に複数記録したい心情が強くあったのです。そこでは写真を撮るのを楽しんでいたというよりもむしろ、記録撮影に勤しむばかりで、カメラが“記録の手段“としてしか機能していませんでした。

一方でM型ライカはオートフォーカスは搭載していませんし、ファインダーは素通しのガラス、しかも視差の影響で、ファインダーでのぞいた通りの景色が撮影できる訳でもないという構造です。連写も早くないので高速連写で一瞬を捉えるというのも苦手かもしれない。
それでも、撮影したいと思った瞬間の情景に対して、対象までの距離を推察してフォーカスを合わせ、そしてガラス越しに景色をはっきりと記憶しながらシャッターを切る行為によって、他には変えがたい感覚を覚えられる。撮影行為が一連のプロセスとして記憶されるからなのか、それとも素通しで景色を見ているからなのか、撮った瞬間のことを後からでも鮮明に思い出せることも特徴的です。
撮影の目的がSNSへの掲載のためだけになっており、また近代のAF搭載カメラでしか撮影体験のない僕にとって、写真撮影そのものを楽しむ道筋を提供してくれるのがM型ライカのように感じたのです。

齢30歳、素人が手を出すにはかなり背伸びしていることは重々承知しているものの、
─ただ写真で記録するだけでなく、撮影行為そのものを愛せる趣味としてカメラを始めたい─
そんなこんなの葛藤を経て、2024年の初夏、M型ライカの購入に踏み切ったのでした。
(その裏でも100Ⅵの応募はもちろん続け、同時期に両機を入手してしまったことは後の祭り)

購入したボディはM11-P。保証の観点で新品で購入しておきたかった点と、ボディ天面のLeicaロゴが撮影時にテンションを上げてくれる点から選択しました。レンズはSummilux 35mm ASPH(11726)。今後何本もレンズを増やす予定は無いことと、せっかくライカボディを使うならば初めからレンズもライカにしてしまいたい、そんな欲が出てしまいました。
焦点距離はフルサイズ換算35mm相当を気に入って用いていたことから、50mmではなくこちらに。本当は2本持って気分で使い分けるのもかっこいいのだけれど、予算も腕前も十分でない私は持て余すだろうから、一本で事足りる35mmにしたのです。50mm相当が欲しければ、後からトリミングして対応可能なのもウレシイ。

Summilux 35mm ASPH(11726)にて

これからの暮らしとカメラ

M型ライカを手にして、普段の暮らしや撮影が大幅に変わるかと思えば、もちろんそんなことはありません。
マニュアルフォーカスに四苦八苦し、持ち運びや傷には神経質になってむしろ大変な思いも数々あります。それでも週末のお出かけや、帰省や旅に持ち出すことで、今この瞬間をM型ライカで撮影できる喜びを噛み締めることができています。
長崎県への旅では、龍馬像までの階段につまづき、ボディに大きな凹みができてしまいました。これでもう些細な傷はへっちゃらです。


写真に関するイベントへ足を運ぶ機会も増えましたね。
M型ライカユーザー諸先輩方の発信は世間を賑わせており、それに触発されて土日の行動様式にも変化が生じています。はじめは、写真展、中でもライカユーザーも多いイベントや展示に参加するとなると、なんだか凄みのある会に思え、相応に技術の高いベテランばかりかと身構えてしまうものでしたが、カメラを愛している老若男女が見受けられ、若輩者の僕にとっても居心地の良い空間でした。
他にも渡部さとるさんのYoutubeチャンネルをはじめ、石井朋彦さんのnoteなども毎回興味深く拝見しており、暮らしの中でカメラに関する情報を多く取り入れるように志向が変化しているようです(ただのキュレーションでしょうか)
こんな感じで日々の暮らしにカメラを取り入れ、勉強と練習を重ねているのでした。



最後に。この一年間で一本だけレンズが増えました。
現行レンズも素晴らしいけれど、やはりあの日ショーケースで眺めたアンティーク品に心掴まれていました。
携行性に優れるElmer 35mm, 造形に惚れたSummarit 5cmとSummilux 50mm 1stなど….魅力あるレンズは豊富にあります。取り憑かれたように、次はレンズ沼への第一歩を踏み出したのでした。

石井朋彦さん 写真展「Mの旅人」にて

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この記事を書いた人

医歯薬系の大学院修士課程を修了後、現在はヘルスケア企業にて勤務しています。
植物と熱帯魚を愛でる生活に勤しみながら、写真も撮っています。
このブログではカメラファインダー小窓からのぞいた素晴らしい日常について、想いを綴っています。